スパイとは言うまでもなく危険な任務
スパイとは言うまでもなく危険な任務である。命をかけてまで何を、そんなに知りたいのだろうか。
一つの柱は、東西緊張を背景にしたNATO(北大西洋条約機構)の軍事機密。そしてもう一方の柱が、東側が遅れをとっているハイテク産業の機密である。
とりわけベルリンは、この二つのポイソトの格好の舞台装置を整えている。ベルリソという都市が、市街の中央を走る壁によって分割され、いまなお、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連の四カ国共同管理という特殊な状態に置かれたままであることを知る人は多い。
その上、西ベルリンは、東ドイツ(ドイッ民主共和国)に四方を囲まれた、いわば陸の孤島である。まさに、東西の出会いの国際せり出し舞台そのもの。諜報合戦に火花を散らすのも無理はない。
陸の孤島という立地条件と、米英仏の共同管理下にある西ベルリンにとって、役割は自ずと決まってくる。西側の東側に対する示威活動の拠点であり、自由世界のショー・ウィンドウとなることだ。
つまり、国際政治、文化の舞台であるばかりでなく、西側世界の方がはるかに進んでいるハイテクノロジー産業のメッカとして大きく発展する。
今さら説明するまでもないだろうが、たとえば1トンの鉄を鉄鋼製品にすると十万円、自動車を作ると百万円、超LSIを作れば三十億円といった具合で、孤島である狭い西ベルリンにとってはまことに好都合な産業である。